波を起こす仕事(6月23日)
23日昼、東京のホテルで、兄龍太郎を偲ぶ会が開かれましたが、参加者の思い出話が、それぞれに兄の一面を物語っていました。
例えば、閣僚会議に出席のため、一緒にオーストラリアを旅した、当時の秘書官の思い出話は、シドニー湾でのクルージングの際に出た料理の話題です。
それは、あらかじめ、「大臣のお好みは何か」「それは、ありきたりの日本料理やフランス料理などではなく、地元の料理だ」といった、大使館経由のやり取りを受けてのことでしたが、間に入った大使館が何と訳したのか、オーストラリアの原住の民、アボリジニの料理なるものが出てきました。
「アボリジニの人たちは、今も食べている料理か」 「いや、今はアボリジニも食べないような料理だ」といったやり取りを聞いて、秘書官らスタッフの間には、「一体何が出てくるのか」と、一瞬のうちに緊張が走りました。
戦々恐々の中で迎えた最初の料理は、何かの肉らしいもので、恐る恐る口にしたものの、これはセーフ、一同の中に安堵の空気が流れます。
しかし油断大敵、次に出てきたのは、何と「芋虫」でした。
しかも、直径1.5センチ、長さ5センチ余りといったしろもので、ひとくち食べたものの、あまりのまずさにこの方は、残りを船上から海に、こっそりと投げ捨てました。
ところが、それを目ざとく見つけた兄は、「あっ、お前捨てただろう」と、この秘書官を指差しながら、自分は一気に芋虫を平らげて、「ほら見ろ、俺は全部食った」と自慢げだったと言います。
いかにも、負けず嫌いの、兄らしい話ではありました。
また、負けず嫌いと言えば、運輸大臣として、国鉄からJRへの民営化を果たしたその日、兄は40度を越す熱があったそうですが、制服に着替えると、熱を押して式典に参加したと言います。
一方、お世話になったお医者さんからは、心臓の弁の付け替え手術に成功して、病室に戻ってきた時のエピソードが紹介されました。
それは、思ったより回復が早かったために、この医師が、待機していた家族と秘書たちに、「すぐにも、気管の管を抜くことが出来ますが」と相談した時のことです。
居ならぶ身内はそろって、「しばらくは管を入れたまま、静かにさせておいて下さい」と言ったとのことで、後で医師からこの話を聞いた兄は、「ひどいやつらだ」と、お冠だったそうです。
その他にも、煙草の箱の開け方へのこだわりや、髪型へのこだわりといった思い出話から、現在、国の政策のエンジン役をしている経済財政諮問会議は、兄の発案で出来たものだといった誉め言葉まで、聞いていて、何と話題にこと欠かない男かと感心しましたが、中でも、最後に立った、若いかつての秘書の話には、なるほどと感じるものがありました。
それは、三井銀行と住友銀行が合併するという記事が、新聞の一面を飾った日のことです。
この秘書が、「三井と住友が合併する日がこようとは、思ってもみませんでした。でも、これも、先生の改革の結果ですよね」と話しかけると、兄は、「波はね、たとえ小さな波でも、一度起きれば消えることなく、やがて大きな波になって押し寄せてくるのさ。その最初の小さな波を起こすのが、政治家の仕事なんだよ」と、答えたと言います。
なるほど、我が兄ながら、いいことを言うものだと感心をすると同時に、そんないい話は、秘書だけでなく弟にも教えてくれればよかったのにと思いました。
