たとえ話の使い方(4月7日)
日本銀行の総裁人事が、大詰めを迎えていますが、先月下旬、新
聞各紙のコラムが、その混乱ぶりを、例え話を使って上手に評して
いましたので、参考までに書き留めておきます。
その一つは、先月20日付の朝日新聞の「天声人語」で、財務次
官経験者の登用に、2度続いて失敗をした顛末を、「下手な弓攻め
を見るよう」と評していました。
「最初の矢は相手のかたくなな鎧にはじき返され、うろたえて放
った二の矢は、ろくに敵陣に届かずに落ちた」という書き出しで、
「果たして、射手の腕が悪いのか、敵の鎧が強固すぎるのか、それ
とも矢がお粗末なのか、見ている者にはさっぱりわからない」とい
った筋書きです。
一方、同日付の毎日新聞の「余録」は、同じ局面が堂々巡りのよ
うに繰り返される様子を、将棋の千日手に例えていました。
それも、単なる例え話には終わらず、その中に、千日手を避けた
ために敗れた木村義雄名人の逸話と、そんな名人の指し方を批判し
た将棋好きの作家、坂口安吾の話が折り込んであって、「安吾も、
政治の千日手の恐ろしさには、思いが及ばなかったようだ」と締め
くくるあたり、かなりの手だれの技です。
もちろん、双方の切り口は異なっていますが、自分が狙った切り
口に合わせてたとえ話を選ぶあたり、文章を書く者には、とても参
考になりました。
寄席の大喜利なら、座布団一枚といったところでしょうが、それ
から2週間余りが経過するうちに、わざ師のコラムニストも書きよ
うがないくらい、ねじれた状況になってきました。
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