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2011/09/02

山間を吹き抜ける風

 8月は、しばらくの間、信州の山にこもっていまし
たが、山には山の風が吹いていました。

 車のないわが夫婦は、ある日、バスに乗って少し山
を下りました。

 降り立った停留所の近くに、小さな滝がありました
ので、その滝を見た後、すぐそばにあるホテルで、温
泉につかろうということになりました。

 ところが、人気のないロビーで、一人留守番役をす
る男性に声をかけますと、タオルの貸し出しはしてい
ませんと、にべもありません。

 少し粘れば、タオルの一つくらい出てきたでしょう
が、商売っ気のない人とやりあっても仕方ありません
し、お茶をするところも見当たりませんので、ロビー
で、新聞を読むことにしました。

 ところが、新聞がどこにあるのかわかりません。

 ロビーの中をくるくると見渡すうち、ようやく、薄
暗がりの壁際に、新聞のラックを見つけましたが、気
がついてみると、室内全体の照明が落とされていて暗
い上、お土産品のコーナーには、売り手も買い手も、
人っ子一人いません。

 「うーむ、これで大丈夫か」と、余計な心配をしつ
つ新聞を読み終えると、ホテルを出てバス停の近くに
戻りました。

 そこで、今度こそお茶をとあたりを見まわしたので
すが、喫茶店らしき姿が見当たらないため、表の看板
に蕎麦処と喫茶と書かれた、観光案内所に足を運びま
した。

 ところが、ここも人影はなく、ようやく奥から出て
きた女性に、お茶は飲めますかと尋ねますと、もう終
わりましたとの返事です。

 時計を見ますと、午後3時前ですので、ここでも、
内心「うーむ」と唸りながら、気をとり直して、「ど
こか近くにありますか」と聞きますと、「少し下った
ところにあります」と教えてくれました。

 地方の「少し」は、どれくらいの遠さかわからない
ぞと警戒しながら、山道を下っていきますと、確かに
少し下ったところに、喫茶店らしきものはありました
が、そこにかかっていたのは、白昼堂々の「準備中」
でした。

 やむなく、山道を戻って、観光案内所の前にあった
ベンチで、上りのバスを待ちましたが、案内所の奥に
ある建物は何だろうとのぞいてみますと、指圧・マッ
サージとあります。

 再び、ひときわ大きく「うーむ」と唸りながら、山
間を吹き抜ける風を、肌に感じていました。

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