風立ちぬ
京都で、仏師のもとをお訪ねした後、北陸線に揺ら
れて、福井に足を運びました。
それは、曹洞宗の大本山永平寺で、早朝の座禅の行
に参加するためでしたが、時間があったため、地元の
特産品である、竹人形を紹介する館を訪ねました。
感心したのは、竹を糸のように細く割って作った、
竹人形の髪の毛で、風になびく髪の流れは、とても竹
とは思えない繊細さです。
館の中には、人形制作の実演もあって、まだ若い職
人さんが、あの髪の毛と同じ様な、細く割った竹の糸
を、作っているところでした。
見ると、すでに細くなった竹ひごに小刀を入れて、
ゆっくりゆっくりと、二つに割いていますので、邪魔
にならないように静かに、コツを聞いてみました。
すると職人さんは、作業の手を休めて、「よく、竹
を割ったような性格と言いますけど、実際の竹は、そ
んなにきれいさっぱりとは、割れないんですよ」と言
われます。
興味を感じて、さらに耳を傾けますと、「特に、こ
れくらいの細さにまでなると、いっぺんにスパッとは
割れませんから、まるで自転車をこぐように、右に行
ったり左に行ったりしながら、注意深く割いていくん
です」とのことでした。
そうか、竹を割ったようなという形容詞は、太い竹
に限ったことなのか、竹も細くなれば、竹を割ったよ
うな性格も、結構左右にぶれるようになるのだなと悟
って、館を後にしました。
メインイベントの永平寺では、夕方と早朝の二度、
壁に向かって座る、面壁の座禅を体験出来ましたが、
朝の座禅の後、午前5時過ぎからは、百人を超える修
行僧が一堂に会した勤行を、本堂の片隅に座して拝見
しました。
その行を終えた若い僧たちが、本堂を離れる時のこ
と、僧衣の列が前を通ると、さぁ~っと、音にはなら
ない、ひそやかな風が流れました。
目の前を次々と通り過ぎる、僧の列が起こす風を肌
に感じながら、細く割った竹の糸でかもし出される、
竹人形の髪の流れを思い起こしていました。
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