あちらもこちらもたれ流し
政府の政策決定にも関わりを持つ、著名な学者とお
話をする中で、被災地での復興予算の使い方は、この
ままでいいのかと気になりました。
この先生は、財政学がご専門ですが、地方から海外
まで、各分野の政策の動向にも詳しい方で、東北の大
震災をきっかけに、各種の事業の手法を思い切って見
直してはどうかとの、ご意見をお持ちです。
その一つが、下水の処理に関わることで、今回の震
災で、被災地の沿岸部にあった、流域下水道や公共下
水道の処理場が軒並み津波に洗われて、破壊されてし
まいました。
このためこの方は、これを機会に、大規模な処理場
で汚水を分離して、大量の汚泥を作り出している、現
在の手法をあらためて、ヨーロッパで採用が進んでい
る、合併処理のコンポスト型に変えて、土壌との循環
を図る仕組みにしてはどうかと考えられていました。
そんな中、財政関係の審議会で関わっている、ある
中央官庁で、下水処理場が壊れて使えなくなった地域
で、上流から下水管を通じて流れてくる汚水に、塩素
を入れて中和させた上、海に流すという案件の説明を
受けました。
その説明を聞いた先生は、即座に、「そんなことを
しても良いのか」と尋ねたのですが、説明にあたった
役人の答えは、「法律には触れませんので、問題はご
ざいません」というものでした。
法律には触れないと言っても、それは法律が、そん
な事態を想定していなかったから、規定がないだけだ
ろうと思いながらも、あらためてその理由を問います
と、処理場を再建するのには、3年かかるため、その
間の経過的な措置なのだと言います。
その説明を聞きながら先生は、津波で壊れてしまっ
たのなら、それを機会に、従来型のシステムを見直し
て、循環型に作り変えるといったアイディアが、なぜ
出てこないのかと、縦割り行政の弊害をつくづくと感
じたそうです。
というのも、流域下水道と公共下水道は国土交通省
の、合併処理は環境省の担当ですから、政治が新たな
指示を出さない限り、復興のための予算は、従来型の
仕組みの繰り返しになるからです。
実は、この下水道の件に関しては、現役時代に、こ
の事業を直接担当する、河川関係の局長を務めたこと
のある、国土交通省の幹部OBも、今回の震災後に、
今のシステムでは、復興に時間とお金がかかるので、
システムを見直す必要があると、発言をしているくら
いです。
これは、ほんの一例ですが、こんな調子では、他の
分野でも、従来型の公共事業をなぞる形で、予算が積
み増されていくばかりでしょう。
中には、それが必要なものもあるでしょうが、増税
増税といって、財源を増やすだけ増やしたあげく、汚
水と同様、予算も一緒にたれ流されて行くのではたま
りません。
復興のための増税の是非を、財源の面からだけ議論
するのではなく、実際に、どんな事業に使われようと
しているのか、マスコミの手による、細部にわたる検
証が望まれます。
そもそも、事業仕分けという名で、政策を見直すの
であれば、復興のための予算を手掛かりにそれを実施
するのが、最も効果的なはずですが。
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