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2012年4月

2012/04/30

花鳥風月を独り占め

 僕が、中国に行っていた間、妻は、宮崎の母の家を
訪ねましたが、89歳の義母はまさに人生の円熟期、
自然と戯れながら一日一日を過ごしていす。

 日々温かさが増してきたため、思い立った妻が、居
間のふすまをはずすと、ベッドを動かして部屋を広げ
ました。

 すると義母は、風の通りが良くなったと大層の喜び
ようで、後日僕が電話をした時にも、「おかげで、お
金はないけど分限者(ぶげんしゃ=もの持ち)になり
ましたわ」と、ご機嫌な様子です。

 あわせて妻が、ホームセンターで買ってきた何種類
かの花の苗を、空いているプランターや植木鉢に植え
ますと、庭に降りた義母は、ホースで水まきを始めま
した。

 ところが、しばらくしますと、楽しそうに水やりを
していた義母の手が、急に止まります。

 どうしたのかと思ってよく見ると、なんとホースに
あいた小さな穴から、細くて勢いのいい水が、義母の
背中めがけて飛んでいたのです。

 義母は、肩のあたりをしっとりと濡らしたものの、
風邪をひいたりすることもなく、無事着替えをすませ
ました。

 しばらくして、雨が降り始めますと、「やっぱり、
水道の水より天の水に限るわ、花も喜んでる」と、ご
満悦だったそうです。

 庭には、昔はよく猫が姿を見せましたが、今は猫に
かわってスズメが顔を出します。

 このため、義母が庭におコメをまくと、一羽二羽と
寄ってきたスズメが、いったん飛び立ってどこかへ行
くと、次には、十羽ほどの仲間を引き連れて戻ってき
ます。

 子供の時に遊んだ石けりの、トントンパと同じよう
なリズムで、スズメたちは土の上や花の鉢のへりを、
器用にはね跳んで行きます。

 義母には、その姿がたまらなく可愛らしいようで、
目を細めてスズメの一挙手一投足を楽しんでいるので
すが、それはもはや、一茶の心境かもしれないと、妻
も感嘆していました。

 考えてみれば、庭には花あり鳥あり、部屋には風が
吹き抜ける、これで夜空にお月様が出れば、文字通り
花鳥風月の独り占めで、自分もこんな優雅な晩年を送
りたいものだと思います。


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集まり散じて人は変われど

 共産党政権の下での中国を見ていますと、人材の育
成と国の統治を結びつける、これまでの世界の歴史に
はなかった、独自のモデルに感心させられます。

 4月の下旬に、日中の経済交流を進めてきた団体の
一員として、3泊4日で北京を訪問しました。

 中国は、訪れるたびに、新しい発見と再認識を繰り
返す国ですが、政権交代を目前に控えた時期に訪れま
すと、中国共産党による人材育成と国の統治との関わ
りは、実に良く出来た政治モデルだと、改めて感じ入
ります。

 といって、新しい話でも何でもないですが、一党独
裁を果たしている中国共産党の党員は、若いうちから
全国に配置されて、それぞれの地域での仕事ぶりをも
とに、ふるい落とされていきます。

 そのふるいにかかって残った人たちが、さらに重要
な地位につけられて、その組織経営の手腕や判断力、
さらには、いったん事あった時の豪胆さなどを試され
ていきます。

 こうして最後まで残ったエリートの中から、共産党
の執行部である、16人の中央政治局員が、さらには
9人の政治局の常務委員が選ばれて、そこから、国家
主席と国務院総理が選出されます。

 このシステムの強味の一つは、上から下まで、公式
見解が全て統一されていることで、国としては、外向
けの強さにつながりますし、個人にとっては、余計な
考えをめぐらす必要がないという利点があります。

 そういうと、皮肉のように聞こえますが、決してそ
うではなくて、自分の経験からも、公式見解をオウム
返しに答えるフォーマットがあれば、個人個人の知恵
と能力を、かなり有効に使えると思うのですす。

 次に、この人材育成システムのすぐれている点は、
13億の国民の中で、特に優れた力を持っていると思
われる人が、国のトップに出てくることです。

 温家宝首相が議長を務めた、アセアン・プラス・ス
リーの会議を傍聴した方が、専門分野ではない国際金
融や経済の話を、すらすらとメモしながら、後ろの役
人のアドバイスを受けることもなく、的確に議事を進
めていく温首相のさばきの良さを見て、感心させられ
たと言っていましたが、どんな分野の話題にも、対応
できる力を備えているのではないかと思います。

 また、これは別の能力ですが、胡錦涛主席は、フォ
トグラフィック・メモリーの持ち主と言われていて、
一度見た書類の内容を、まるで写真に撮ったかのよう
に、頭の中に焼きつけて、記憶する力を持っていると
言われます。

 胡錦涛主席と会談した、当時の菅首相が、手に書類
を持って、それを読みながら話しているのを見て、愕
然としたものですが、胡錦涛主席のこの話を聞くと、
もはや相手にならないという寂寥感にかられます。

 さて、この人材育成システムの、もう一つ優れた点
は、5年10年を単位に、優秀な人材が次々と交代し
ていくことです。

 何が言いたいかというと、現代の中国は、共産党王
朝が支配する独裁国家ですが、従来の独裁国家とは違
って、個人やその家族の独裁が、歴代続いていくモデ
ルではありません。

 このため、当代の主席を排除したとしても、独裁が
崩壊するわけではありませんし、共産党に代わる有力
な、というのは、13億の民を統治する能力を持った
という意味ですが、有力な組織やグループが、すぐに
とって代われるわけでもありません。

 ですから、いかに中国版のツイッター「微博(ウェ
イボ)」などソーシャル・ネットワーク・サービスが
普及したとしても、昨年中東で話題になった、ジャス
ミン革命のような政治変動は、起きにくいと考えた方
がよさそうです。

 こう考えてみると、地方から叩き上げる人材の育成
と、その循環システムを原動力にした統治機構は、こ
れまでの世界の歴史にはなかった、実に巧みで強靭な
統治モデルではないかと、改めて再認識させられまし
た。
 
 今お世話になっている早稲田大学の校歌に、「集ま
り散じて人は変われど、仰ぐは同じき 理想の光」と
いうフレーズがありますが、まさに、中国共産党モデ
ルの強さは、これではないかと感じました。

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2012/04/21

大臣の座と志

 国土交通大臣への、問責決議が可決されたのに対し
て、野田総理は、大臣の続投を表明していますが、民
主党の姿勢として、それでいいのかと疑問を持ちまし
た。

 といっても、それでいいのかという意味は、今後の
審議を円滑に進めるためにとか、政局に与える影響を
考えた時にといった視点ではなく、民主党の志からし
て、それでいいのかという意味です。

 というのも、民主党は政権交代にあたって、自民党
が長く続けてきた、中央集権の下で地方に補助金を配
分していくやり方や、その補助金を、政・官・業のト
ライアングルの中で回していく仕組みを、根本から変
えるんだと主張してきたと思うからです。

 こうした、これまで自分が受けとめていた民主党の
志に照らして、今回の問題を見てみますと、自民党が
長く続けてきた土建型の政治と、何も変わりないこと
に気がつきます。

 だって、国の土木行政の元締めで、発注権者でもあ
る国土交通大臣が、地方都市の建設業協会の会長に、
民主党の国会議員をしていた、市長選挙の候補者をよ
ろしくと、自筆の署名の入った文書を送っているので
すから。

 これは、ご本人が意識してやったことならば、その
まま法律違反になりますから、大臣が、軽率だったが
知らなかったと答えるのは当然ですが、より大きな問
題は、市長選挙の地元を始めとする民主党の組織が、
こうしたやり方に疑問を持っていないことです。

 というのも、大臣が知らなかったとしても、その話
を大臣室まで持って行った議員や、それを受けた政務
秘書官は、話の内容をよく知っていたわけですし、し
かも、そろって民主党の身内だからです。

 野田さんも、軽率だったことは否定できないと、大
臣の言動だけをとらえて、目の前のハエを追おうとし
ていますが、自らが代表を務める組織が、これまで自
分たちが批判してきた、政・官・業のトライアングル
と、中央集権の力を使って、選挙を有利にしようと働
きかけたことには、何の問題も感じていないように見
えます。

 こんなあり様を見ていますと、今の民主党には、志
を売ってまで、守るべきものがあるのかと言いたくな
ります。

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2012/04/14

小沢判決の行方

 練炭を使って3人の男性を殺害したとして、殺人罪
に問われている女性が、一審の裁判員裁判で死刑判決
を受けたのを見て、民主党の小沢一郎さんの裁判との
関連性を、考えてみました。

 何故、この二つの裁判に関連性を感じたのかと言え
ば、まず第一に、二つの裁判とも、司法制度改革がも
たらした形態の裁判だからです。

 また、もう一つ、いずれも確たる物的な証拠や証言
のない、状況証拠のみで維持されている裁判だという
点も、似かよっています。

 司法制度改革は、裁判員制度の導入にしろ、検察審
査会の議決に、法的な拘束力を与える制度の新設にし
ろ、刑事事件の起訴から判決までの過程に、市民の感
覚を取り入れようとした点に特徴があります。

 その中で裁判員裁判は、一審段階とはいえ、判決と
いう司法手続きの最終的な判断の段階に、一般市民が
関わりますので、市民感覚はストレートに、判決内容
に反映されます。

 そうしたことから、多くの国民が、被告が犯人では
ないかと感じている事案では、その意に沿った判決が
出やすくなると思います。

 これに対して、検察審査会の2度の議決による強制
起訴は、捜査と判決との中間にあたる、起訴の段階に
市民が関わるため、強制起訴となった事件でも、結果
である判決には、そうした市民の思いが、直接反映さ
れるわけではありません。

 また、プロの目で見て、裁判に耐えうる法的構成の
上に、市民が加わっていく裁判員制度とは違って、検
察審査会による強制起訴は、プロの目で見て、有罪に
持ち込むのは難しいと判断した事案を、あらためて起
訴するのですから、有罪の可能性は、自ずと低くなら
ざるを得ません。

 このため、先月14日に那覇地方裁判所で 検察審
査会による強制起訴の裁判としては、初めての判決が
下されましたが、結果は無罪でした。

 「国民感覚や処罰感情からかけ離れない、判断が求
められる」という、検察官役の指定弁護士の主張も、
判決には影響しませんでした。

 また、7年前に兵庫県尼崎市のJR福知山線で、快
速電車が脱線して、百人を超える方々が亡くなった事
故では、検察が起訴したJR西日本の前の社長に、今
年1月、無罪の判決が出ています。

 ですから、これとは別に、検察審査会の議決で強制
起訴された、それより以前の3代にわたる元社長に、
有罪の判断が下される可能性は、極めて低いと考えら
れます。

 そこで、今月26日に予定されている、小沢一郎さ
んの、政治資金規正法違反事件の判決ですが、小沢さ
んに報告をしたという当時の秘書の供述が、裁判では
証拠として採用されなかったことから、無罪の公算が
強いと言われています。

 ただ、ここからは素人の疑問ですが、女性被告への
死刑判決のように、物的な証拠や証言がなくても、あ
れだけ重い判決が出るのであれば、政治家と秘書との
関係性から、具体的な証言はなくても、政治資金規正
法の共犯関係を推論し得るという、論理構成は有り得
ないのでしょうか。

 というのも、上記の那覇地裁の判決や、JR西日本
の前社長の判決は、いずれも、だますという故意がな
いとか、事故の発生を予見できなかったといった、犯
罪が成立するための要件そのものに関わる判断で、小
沢さんの裁判での証拠採用とは、ほんの少し性格が異
なるように感じられるからです。

 また、この点には異論が多いのかもしれませんが、
多くの国民が、何かおかしいと感じている点では、死
刑判決を受けた女性被告と、類似点がないではありま
せん。

 裁判員制度も、検察審査会の議決に、法的な拘束力
を与える制度改革も、法律の専門家をはじめとする、
13人の委員による2年間の審議を経て、3年前の5
月に導入をされました。

 このうち裁判員制度は、一定の成果とともに、制度
としても定着しつつあると感じられますが、もし、小
沢さんの判決も無罪ということになれば、検察審査会
による強制起訴には、かなりの疑問符がつくことにな
るでしょう。

 また、それと同時に、これまで検察官が独占してい
た起訴権限に、国民の感覚を取り入れようという、制
度改革の趣旨も、制度の導入から3年を経ての見直し
の中で、姿を消していくかもしれません。

 くれぐれも、誤解のないようにお断りをしておきま
すが、小沢さんが有罪になればいいとか、有罪になる
だろうと言っているわけではありません。

 ただ、以上のようなことを縷々考えてみますと、小
沢さんの判決は、政治的にも社会的にも、とても意味
の深い判決だと思えてくるのです。

 特に、検察審査会による強制起訴の制度は、8年前
の5月に成立した、検察審査会法の改正によって導入
されたのですが、この法案には、当時小沢さんが代表
代行を務めていた、民主党も賛成していますので、そ
の意味からも、判決の行方が気になります。

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男のやきもち対処法

 ある日の昼下がり、男と女の生態に詳しい、人生の
先輩とも言うべき女性とお茶をしながら、男のやきも
ちのいなし方を学びました。

 自分もこれまでの人生経験の中で、女のやきもちも
男のやきもちも、それぞれを体感する機会に恵まれて
きましたが、女性のやきもちは、好きな男性が他の女
になびいたといった、原因もわかりやすく、筋も通っ
ているケースが多いように思います。

 これに対して、男のやきもちは筋が通っていないだ
けに、何とも始末におえません。

 そんな話をしていますと、お相手の方は僕の方を指
さして、そもそも、あなたの様な男前は、他の男から
見ると、ただでさえ我慢ならないものなのよと言われ
ます。

 その上で、男が別の男性のことを、「あいつはいい
男だからなあ」と言ってきても、その誘い水に乗って
「うん、そうねえ」なんて相槌を打ってはいけないと
いうのが、この方に授かった第一の教訓でした。

 ですから、この方は、そうしたかまをかけてくる男
がいても、「ええ~、ああいうのを良い男って言うの
かなあ、私は、あなたの方がタイプよ」と、いなすの
だそうです。

 同じように、日頃から、こんな人が出世すればいい
のにと思っている人がいたとしても、その人のことを
同じ会社の人が、「今度、あいつが出世するみたいだ
よ」と言ってきた時には、「そ~お、そんな器かしら
ねえ、あんまり考えたことなかったから」と、とぼけ
ないといけないのだそうです。

 というのも、「それはいいわね、あの人が出世した
らいいと思ってたのよ」なんてことを言ったら、あっ
という間に足を引っ張られて、その話は消えてしまう
からです。

 単純な僕などは、ちょっと誘い水をかけられたら、
すぐに話をあわせてしまいそうですが、人生の先輩の
お話を聞きながら、そんな時にもまずは、「ええ~」
とか「そ~お」といった受け答えが来るように、練習
を始めないといけないと思いました。

 それにしても、男のやきもちほど、厄介なものはあ
りませんので、皆さんもよく注意して下さい。

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2012/04/02

台湾海峡春景色

 今年1月に行われた台湾の総統選挙で、親中派の馬
英九総統が再選されたことを受けて、中国大陸と台湾
との関係は、一層緊密さを増しているようです。

 これは、台湾海峡を挟んだ両岸の、経済交流の進み
具合を探るため、今年2月に、中国の福建省と台北市
などを、視察した方にうかがった話です。

 それによりますと、大陸と台湾をつなぐ航空便が、
週に500便だと言いますから、その数にまず驚かさ
れます。

 それが、台湾からはビジネスの客で、大陸からは観
光客で一杯とのことで、この4月~5月にかけての連
休中も、五つ星の一部をのぞいては、ホテルの部屋は
すでに、大陸側の旅行社に押さえられているとのこと
でした。

 こうした、両岸の関係強化の流れに乗って、福建省
の島と台北とを結ぶフェリーで、台湾に渡った車は、
中国のナンバープレートのまま、台湾の中を走れるよ
うになっています。

 また、この島と台北との間は、120キロしか離れ
ていないため、改革発展委員会の幹部の話では、将来
は。台湾との間に三本のトンネルを抜く計画もあるそ
うです。

 その台湾と中国との間では、通称ECFA(エクフ
ァ)と呼ばれる、「海峡両岸経済協力枠組協定」が調
印されていますので、すでに、台湾から大陸に向けて
は500品目以上が、一方、大陸から台湾に向けては
600品目以上が、関税の優遇措置の対象になってい
ます。

 このため、中国との間に、FTA=自由貿易協定を
結んでいない日本と韓国は、対中貿易では台湾に比べ
て、かなりのハンディキャップを背負っています。

 さらに、台湾と中国双方の開放度は、2012年度
中には100%に達する見込みですので、経済効果に
不安はないのだろうと思いきや、両岸には、またそれ
ぞれの心配があるようです。

 このうち中国側が抱く心配は、日本のメ-カーが、
中国向けの関税がなくなる台湾で、物づくりを始める
ことによって、中国への投資が減るのではないかとい
うことです。

 一方、台湾の側は、やがて日中韓のFTAが締結さ
れると、ECFAの優位性がなくなることを心配して
います。

 こうしたことから、中国側では、今は漁業が中心の
島に、日本と韓国を引き込んだ、一大輸出基地を作っ
て、優遇税制で台湾への流出を引きとめようとしてい
ます。

 一方、台湾では、台南に日本企業向けの団地を開発
中で、それに加えて企業所得税を、24%から17%
に引き下げる計画も進んでいます。

 台湾海峡の雪解け話は、これまでも折に触れて耳に
していましたが、1月の総統選挙が、中国側の思惑と
合致した結果に終わったことを考えますと、今後の展
開は、台湾海峡春景色などと、第三者的に傍観しては
いられなくなると、あらためて認識しました。

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