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2012年9月

2012/09/08

弱みにつけ込むのか

 高い濃度の放射性セシウムに汚染された、廃棄物の
最終処分場をめぐる報道を見ていて、国の対応は相変
わらずだなあと感じたことがありました。

 原発事故で汚染した高い濃度の廃棄物は、各県ごと
に処分場を設けて処理することになっていますが、国
は、このうち栃木県分の最終処分場の予定地を、矢板
市内に決めて、9月初めに、環境副大臣が現地を訪れ
てそのことを伝えました。

 実は、数か月前に、この矢板市に行ったことがある
のですが、それは、市内にあるシャープの工場の、労
働組合が主催した講演会でした。

 その時にも、グローバル化が引き起こしている、製
造業の危機についてお話ししましたが、その後シャー
プでは、その危機が日に日に現実化していきました。 

 そんな中、8月2日にシャープは、栃木工場の規模
を大幅に縮小して、1500人の希望退職を募ること
を発表しました。

 もともと、リーマンショック以前と比べますと、シ
ャープの工場からの法人税収入は、限りなくゼロに近
いくらい激減していますが、多くの社員が市内に暮ら
していることを考えますと、今後の住民税の減少も大
幅なものになると予想されます。

 さらに、関連の企業や、地域のサービス産業への影
響を考えれば、その打撃は計り知れません。

 その矢板市に、原発事故で生じた、指定廃棄物の最
終処分場の話が持ち込まれたのは、シャープの発表か
ら一ヶ月後の、9月3日のことでした。

 あまりものタイミングの良さに、政府の思惑が透け
て見えるように感じましたが、納得のいかないことが
いくつかあります。

 とはいえ、いずれどこかに、この処分場を作らない
といけないことは間違いありませんので、矢板市の土
地が本当に敵地なのであれば、そのことに異論を差し
挟むものではありません。

 ただその時も、国として、一日も早く最終処分場を
設ける必要があると考えるのなら、地元の同意など抜
きに、断固やり抜く意志を示すことも責任ある態度の
一つです。

 一方、地元の同意を取り付けてからという考え方な
らば、地元が受け入れやすい環境づくりや、話の進め
方が必要で、そうでなければ、必要な施設の整備が、
結果的に遅れることになります。

 間違いなく国は、シャープの栃木工場の、大幅縮小
という厳しい現実の中で、地元自治体も、最終的には
受けてくれると踏んだでしょうし、そのことが、「適
地」と判断されたことの要素にも含まれていたと思い
ます。

 ただ、沖縄の基地問題も同じですが、国にとって必
要な施設を地方に受けてもらうにあたっては、弱みに
付け込んで話を持ちかけた上、交付金という札束で頬
を叩くといった手法ではなく、地域の思いをくみ取り
ながら話を進める、合意形成の手法が必要です。

 民主党による政権交代にあたって、多くの人は、こ
うした変化を期待したのではないかと思いますが、こ
の矢板市をめぐるニュースを見ていて、またまた裏切
られた思いがしました。

 国の責任で断固進めるのか、それとも、地域との合
意形成を図るのか、後者であれば、どういう手法をと
っていくのか、新しい道筋が考えられて、しかるべき
時だと思います。

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2012/09/05

人質の扱い方

 歴代の朝廷を舞台にした、韓国の時代劇ドラマを見
ていますと、登場人物が、一族郎党の隆盛を守るため
に、日々謀りごとをめぐらす姿に、ただただ感心して
しまいますが、それだけ勉強にもなります。

 例えば、娘の最愛の男性が、夫の政敵の息子と知っ
た母親が、「あの親子ともども皆殺しにしなければ、
次には我が一族がやられるのよ、お前にはそんなこと
もわからないの」と、娘を怒鳴りつける場面には、道
理や倫理を超えた迫力があります。

 兄が逮捕されて、藁をもつかむ思いに駆られた大統
領の、なりふり構わない行動にも、こうした歴史の積
み重ねの一端が、反映されているのでしょう。

 そんな韓国の歴史物の中に、西暦900年代の初め
の、高句麗と百済の興亡をテーマにしたドラマがあり
ますが、ある城をめぐる不利な戦況の中で、高句麗は
百済と和睦を結んで、互いに人質を交換します。

 その後、高句麗の王は、百済に人質に取られた従弟
のことを気遣って、百済との和睦に縛られますが、そ
れでは、これまで同盟関係を結んできた、新羅を見殺
しにすることになって、国の将来が危うくなると考え
た策士が、将軍たちに対して、百済から来ている人質
の命を奪いなさい、そうすれば、百済に行った王様の
従弟も殺されて、王様の心中を悩ますもとがなくなる
と進言します。

 人一人の命で、国の将来を賭けた選択肢が広がるの
であれば、そのことの方が重要だし、王様の従弟にと
っても、そのまま百済で一生を過ごすよりは、その命
を国のために生かすことになるというのです。

 この話を見ていて、民・自・公の三党合意と、民主
党と自民党との間での、その後の駆け引きを思い起こ
しました。

 というのも、三党合意の中では、総理の政治生命と
いう人質と、与野党の壁を超えて合意に至った以上、
世論に向けても、友党の公明党に向けても、めったな
ことでは引き下がれないという自民党側の人質とが、
交換されていたと思うからです。

 ですから、谷垣さんが、本気で野田政権のというか
民主党政権の首を取ろうとするならば、8月8日に党
首会談を開いた時に、素知らぬ顔で三党合意を破棄し
て、人質のくびきを解いてしまう手もあったと思いま
す。

 実際に、そうした雰囲気が自民党の党内にもあった
ため、新聞各社は論説で、そんなことをしたら、国民
にそっぽを向かれる、つまり、差し出した人質が殺さ
れてしまうぞと書き立てましたが、本気でこの政権を
倒す必要があると考えるのなら、肉を切らして骨を断
つの気迫なしには勝負は戦えません。

 その点では、あの時自民党の執行部に、三党合意の
破棄を求めていた小泉進次郎議員の方が、遥かに勝負
勘が優れていました。

 それを、人質の死を気遣うあまり、自らの選択肢を
狭めて、「近いうちに」で手を打ってしまう人の良さ
では、命取りになりかねません。

 韓国の歴史時代劇は、様々なことを教えてくれる、
見るたびに、そんな思いを新たにします。

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彼らの見ている前で

 毎年、陸上自衛隊の東富士演習場で行われる、総合
火力演習を見る機会に恵まれました。

 一般公開で行われる日曜日の演習は、抽選の倍率が
十倍以上という人気ですが、その前日にも、全国の陸
上自衛隊員や、海外からの駐在武官を対象に、同じ内
容の演習が行われます。

 縁あって、その土曜日の演習を見せていただくこと
になったため、前夜から御殿場市に泊まりました。

 その晩は、お世話をいただいた自衛隊の方々と会食
をしましたが、これまで知らなかった話を、あれこれ
と教えてもらいました。

 例えば、戦闘の際に使う迷彩服は、耐火や防水など
特殊な加工が施されているため、結構重たいのだそう
です。

 どのくらい重たいのかと尋ねると、奥さんに洗濯を
頼んだ時に、「こんなに重いものを着てるの」と奥さ
まが驚いたくらい重たい、という答えが返ってきまし
た。

 また、迷彩服は、赤外線に反応しないようになって
いるため、赤外線のセンサーで人の動きを感知する、
男性用のトイレでは、用を足した後にも水が流れない
のだそうです。

 考えてみれば、赤外線のセンサーに引っかかるよう
では、敵に居所をつかまれてしまいますよね。

 一方、20年余り戦車に乗っていたという方のお話
では、これまでの旧式の戦車は、冷暖房などおかまい
なしのため、冬は外気より寒く、夏は外気より暑いと
いった状態で、真夏には車内は40度に達すると言い
ます。

 これが、通称「ヒトマル」とか「イチマル」と呼ば
れる、2010年式の最新型の戦車になると、さすが
に冷房が入るそうですが、それも、車内のコンピュー
ターの機材を冷やすためで、決して人のためではない
というのが、いかにも自衛隊らしい話でした。

 一夜明けた土曜日は、一年に何日もないくらいの晴
天で、眼前に広がる富士山の姿も、ひときわ間近に感
じられます。

 その中でのハイライトは、別々の方角から時間差で
発射した砲弾を、正面の席から見て富士山の形になる
ように、空中で同時に破裂させるという演習です。

 この日は、見事に成功しましたが、狙った場所で同
時に破裂させるためには、距離や角度、風速はもちろ
んのこと、地球の自転の影響などを補正する、ソフト
も使うということで、かなりの技量が求められること
は言うまでもありません。

 演習で使われたものの中には、一発6千万円という
高価なものもありましたので、それだけのお金をかけ
る意味があるのかと、皮肉る向きもあるでしょうが、
演習の大きな目的の一つは、海外からの駐在武官に、
日本の軍事能力を見せつけることにあると言います。

 演習を見た海外の軍人に、こんなに高い攻撃力を持
っているのなら、容易に手は出せないと思わせること
が、抑止力につながるというわけです。

 特に、この日の演習の締めくくりには、日本の離島
に外国が侵攻したとの想定もあって、日本海や東シナ
海に浮かぶ島の周辺がかまびすしい中で、実に意味深
長な演習でした。

 海外の武官の中には、中国や韓国の軍人もいました
ので、彼らがどう受けとめたのか、尋ねてみたい気に
なります。

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