人質の扱い方
歴代の朝廷を舞台にした、韓国の時代劇ドラマを見
ていますと、登場人物が、一族郎党の隆盛を守るため
に、日々謀りごとをめぐらす姿に、ただただ感心して
しまいますが、それだけ勉強にもなります。
例えば、娘の最愛の男性が、夫の政敵の息子と知っ
た母親が、「あの親子ともども皆殺しにしなければ、
次には我が一族がやられるのよ、お前にはそんなこと
もわからないの」と、娘を怒鳴りつける場面には、道
理や倫理を超えた迫力があります。
兄が逮捕されて、藁をもつかむ思いに駆られた大統
領の、なりふり構わない行動にも、こうした歴史の積
み重ねの一端が、反映されているのでしょう。
そんな韓国の歴史物の中に、西暦900年代の初め
の、高句麗と百済の興亡をテーマにしたドラマがあり
ますが、ある城をめぐる不利な戦況の中で、高句麗は
百済と和睦を結んで、互いに人質を交換します。
その後、高句麗の王は、百済に人質に取られた従弟
のことを気遣って、百済との和睦に縛られますが、そ
れでは、これまで同盟関係を結んできた、新羅を見殺
しにすることになって、国の将来が危うくなると考え
た策士が、将軍たちに対して、百済から来ている人質
の命を奪いなさい、そうすれば、百済に行った王様の
従弟も殺されて、王様の心中を悩ますもとがなくなる
と進言します。
人一人の命で、国の将来を賭けた選択肢が広がるの
であれば、そのことの方が重要だし、王様の従弟にと
っても、そのまま百済で一生を過ごすよりは、その命
を国のために生かすことになるというのです。
この話を見ていて、民・自・公の三党合意と、民主
党と自民党との間での、その後の駆け引きを思い起こ
しました。
というのも、三党合意の中では、総理の政治生命と
いう人質と、与野党の壁を超えて合意に至った以上、
世論に向けても、友党の公明党に向けても、めったな
ことでは引き下がれないという自民党側の人質とが、
交換されていたと思うからです。
ですから、谷垣さんが、本気で野田政権のというか
民主党政権の首を取ろうとするならば、8月8日に党
首会談を開いた時に、素知らぬ顔で三党合意を破棄し
て、人質のくびきを解いてしまう手もあったと思いま
す。
実際に、そうした雰囲気が自民党の党内にもあった
ため、新聞各社は論説で、そんなことをしたら、国民
にそっぽを向かれる、つまり、差し出した人質が殺さ
れてしまうぞと書き立てましたが、本気でこの政権を
倒す必要があると考えるのなら、肉を切らして骨を断
つの気迫なしには勝負は戦えません。
その点では、あの時自民党の執行部に、三党合意の
破棄を求めていた小泉進次郎議員の方が、遥かに勝負
勘が優れていました。
それを、人質の死を気遣うあまり、自らの選択肢を
狭めて、「近いうちに」で手を打ってしまう人の良さ
では、命取りになりかねません。
韓国の歴史時代劇は、様々なことを教えてくれる、
見るたびに、そんな思いを新たにします。
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